$X$ を無限集合、$K$ を体とし、$X$ 上の $K$ に値を持つ関数全体のなす可換環を $A = K^X$ と表す。このとき、以下の (1) から (7) の命題が成立する。
各 $x \in X$ に対して、写像 $\phi_x : A \to K$ を $\phi_x(f) = f(x)$ によって定義する。
任意の $f, g \in A$ および $x \in X$ に対し、環 $A$ の演算の定義から次が成り立つ。
$$\phi_x(f + g) = (f + g)(x) = f(x) + g(x) = \phi_x(f) + \phi_x(g)$$
$$\phi_x(fg) = (fg)(x) = f(x)g(x) = \phi_x(f)\phi_x(g)$$
また、環 $A$ の単位元はすべての $y \in X$ に対して $1$ を返す定数関数 $1_A$ であり、$\phi_x(1_A) = 1_K$ ($K$ の単位元)となる。したがって、$\phi_x$ は環準同型写像である。
次に、任意の $c \in K$ に対して、すべての $y \in X$ で $f_c(y) = c$ となる定数関数 $f_c \in A$ を考えると、$\phi_x(f_c) = f_c(x) = c$ となる。これにより $\phi_x$ は全射である。
環の準同型定理より、 $A / \ker(\phi_x) \cong K$ が成り立つ。ここで、準同型核の定義から次を得る。
$$\ker(\phi_x) = \{f \in A \mid \phi_x(f) = 0\} = \{f \in A \mid f(x) = 0\} = \mathfrak{m}_x$$
したがって、$A/\mathfrak{m}_x \cong K$ である。$K$ は体であるため、剰余環 $A/\mathfrak{m}_x$ も体である。可換環のイデアルによる剰余環が体になることは、そのイデアルが極大イデアルであることの必要十分条件であるため、$\mathfrak{m}_x$ は $A$ の極大イデアルである。
実数の集合 $X = \mathbb{R}$ から実数体 $K = \mathbb{R}$ への関数全体 $A$ を考えます。ある点 $x = 0$ を固定したとき、$\mathfrak{m}_0$ は「原点を通る関数($f(0)=0$ となる関数)」の全体です。例えば、$f(x) = x$ や $f(x) = \sin(x)$ などがこれに含まれます。関数 $g(x) = x + 3$ は $\mathfrak{m}_0$ に属しませんが、剰余環 $A/\mathfrak{m}_0$ においては定数 $3$ と同一視されます($[g] = [3]$)。このように、一点での値だけを取り出す操作が体 $\mathbb{R}$ と同型になります。
関数 $f \in A$ に対し、そのサポート(台)を $\text{supp}(f) = \{x \in X \mid f(x) \neq 0\}$ と定義する。この記号を用いると、$J = \{f \in A \mid \#\text{supp}(f) < \infty\}$ と表される。
無限集合 $X$ を自然数 $\mathbb{N} = \{1, 2, 3, \dots\}$ とし、$K = \mathbb{R}$ とします。このとき、$A = \mathbb{R}^{\mathbb{N}}$ は実数列全体のなす環になります。
この設定では、イデアル $J$ は「有限個の項を除いてすべて $0$ になる数列」の全体です。例えば $(1, -5, 3, 0, 0, 0, \dots)$ は $J$ に含まれます。しかし、すべてが $1$ の数列 $(1, 1, 1, 1, \dots)$ は無限個の非ゼロ項を持つため $J$ には含まれず、$J$ は環全体 $A$ と一致しません。また特定の項だけが $1$ の数列 $e_3 = (0, 0, 1, 0, 0, \dots)$ は $J$ の元ですが、第3項が $0$ ではないため $\mathfrak{m}_3$ には含まれません。
(2) より $J$ は $A$ の真のイデアル($J \subsetneq A$)である。環論における一般論(Zornの補題帰結)により、任意の真のイデアルを含む極大イデアルが存在する。したがって、$J \subseteq \mathfrak{m}$ を満たす $A$ の極大イデアル $\mathfrak{m}$ が存在する。
いま、この $\mathfrak{m}$ がある点 $x \in X$ に対して $\mathfrak{m} = \mathfrak{m}_x$ であると仮定する。このとき $J \subseteq \mathfrak{m} = \mathfrak{m}_x$ となるが、これは (2) で示した「どの $x \in X$ についても $J$ は $\mathfrak{m}_x$ に含まれない」という事実に矛盾する。したがって、$\mathfrak{m}$ はどの $\mathfrak{m}_x$ ($x \in X$) とも一致しない。
$\mathfrak{m}$ を、任意の $x \in X$ に対する $\mathfrak{m}_x$ とは異なる $A$ の極大イデアルとする。
各 $x \in X$ を任意に取る。$\mathfrak{m}$ も $\mathfrak{m}_x$ も $A$ の極大イデアルであり、かつ $\mathfrak{m} \neq \mathfrak{m}_x$ であることから、包含関係 $\mathfrak{m} \subseteq \mathfrak{m}_x$ は成り立たない(もし包含されれば極大性より一致してしまうため)。したがって、ある関数 $g_x \in \mathfrak{m}$ が存在して $g_x \notin \mathfrak{m}_x$、すなわち $g_x(x) \neq 0$ となる。
ここで、(2) の証明で用いた点 $x$ の指示関数 $e_x \in A$ を考える。また、関数 $h_x \in A$ を次のように定義する。
$$h_x(y) = \begin{cases} g_x(x)^{-1} & (y = x) \\ 0_K & (y \neq x) \end{cases}$$
このとき、すべての $y \in X$ について $(h_x g_x)(y) = e_x(y)$ が成り立つ。実際、
である。したがって、$e_x = h_x g_x$ と表せる。$\mathfrak{m}$ はイデアルであり $g_x \in \mathfrak{m}$ であるから、その倍元である $e_x = h_x g_x$ も $\mathfrak{m}$ に属する。これが任意の $x \in X$ について成り立つため、すべての $x \in X$ に対して $e_x \in \mathfrak{m}$ である。
次に、$J$ の任意の元 $f$ を取る。$J$ の定義より、$\text{supp}(f)$ は有限集合である。これを $\text{supp}(f) = \{x_1, x_2, \dots, x_n\}$ とおく。このとき、関数 $f$ は次のように指示関数の有限な線形結合として一意に表すことができる。
$$f = \sum_{i=1}^n f(x_i) e_{x_i}$$
すべての $i = 1, \dots, n$ について $e_{x_i} \in \mathfrak{m}$ であり、$\mathfrak{m}$ はイデアルであるから、これらの有限和もまた $\mathfrak{m}$ に属する。ゆえに $f \in \mathfrak{m}$ となり、$J \subset \mathfrak{m}$ が示された。
$\mathfrak{m}'$ を $A$ の任意の極大イデアルとする。
極大イデアルがケース1とケース2の双方に同時に属することは、(3) で示した通り「$J$ を含む極大イデアルはどの $\mathfrak{m}_x$ とも一致しない」ことから不可能である。したがって、$A$ の極大イデアルはこれら2種類のいずれか片方のみに分類される。
$K$ を要素数 $q$ の有限体とする($q$ は素数のベキ)。有限体の乗法群 $K^\times$ の位数は $q-1$ であるから、任意の $c \in K^\times$ に対して $c^{q-1} = 1_K$ が成り立ち、両辺に $c$ をかけることで $c^q = c$ を得る。これは $c = 0_K$ のときも明らかに成り立つため、すべての $c \in K$ について $c^q = c$ が成立する。
いま、任意の関数 $f \in A$ を取る。すべての $x \in X$ において $f(x) \in K$ であるから、上述の事実より $(f(x))^q = f(x)$ が成り立つ。環 $A$ における積の定義より、これは $A$ における元としての等式 $f^q = f$ を意味する。
$\mathfrak{m}$ を $J$ を含む $A$ の極大イデアルとし、剰余体 $L = A/\mathfrak{m}$ を考える。定数関数の埋め込み写像 $\iota: K \to A$ ($c \mapsto f_c$)と自然な射影 $\pi: A \to A/\mathfrak{m}$ の合成 $\pi \circ \iota : K \to L$ を考えると、$\mathfrak{m}$ は真のイデアルであるため定数関数 $1_A$ を含まず、この準同型は単射となる。よって $K$ は $L$ の部分体とみなせる。
$L$ の任意の元 $[f] = f + \mathfrak{m}$ に対し、$A$ での等式 $f^q = f$ の両辺を $\mathfrak{m}$ を法として見ることで、次を得る。
$$[f]^q = [f]$$
すなわち、$L$ のすべての元は多項式 $T^q - T \in L[T]$ の根である。体の上の一変数多項式はその次数を超える個数の根を持ち得ないため、この多項式の $L$ における根の個数は高々 $q$ 個である。したがって、集合としての濃度について $\#L \le q$ が成り立つ。
一方で、$K \subseteq L$ かつ $\#K = q$ であるから、濃度の関係から $L = K$ でなければならない。すなわち、無限遠点での剰余体は元の有限体 $K$ に同型である($A/\mathfrak{m} \cong K$)。
もっとも単純な有限体 $K = \mathbb{F}_2 = \{0, 1\}$ を考えます。このとき関数 $f \in A$ は各点で $0$ か $1$ の値しかとりません。これは集合 $X$ の部分集合の特性関数と1対1に対応し、環 $A$ はブール代数と等価になります。
すべての $f$ において $f^2 = f$ (冪等性)が成り立つため、剰余体 $L = A/\mathfrak{m}$ においてもすべての元が $x^2 = x$ を満たします。体においてこれを満たす元は $0$ と $1$ しかありえないため、$L$ には新しい元が追加される余地がなく、必ず $L = \{0, 1\} \cong \mathbb{F}_2$ となるのです。
$K$ を無限体とする。(6) の証明と同様に、定数関数の埋め込みによって $K$ は剰余体 $A/\mathfrak{m}$ の部分体とみなすことができる。
$A/\mathfrak{m}$ が $K$ より真に大きな体であることを示すために、任意の $c \in K$ に対して $[f] \neq [c]$ (すなわち $f - f_c \notin \mathfrak{m}$)となるような関数 $f \in A$ を具体的に構成する。
$A$ の任意の元 $g$ に対し、その零点集合を $Z(g) = \{x \in X \mid g(x) = 0\}$ と定義する。極大イデアル $\mathfrak{m}$ に対し、その元の零点集合の全体を $\mathcal{U} = \{Z(g) \mid g \in \mathfrak{m}\}$ とおく。 $\mathfrak{m}$ が極大イデアルであることから、$\mathcal{U}$ は集合 $X$ 上の超フィルター(ultrafilter)となる。さらに $\mathfrak{m}$ が $J$ を含んでいることから、任意の有限集合 $F \subset X$ に対し、その特性関数の余関数($F$ の外で $1$、 $F$ の上で $0$ となる関数)は $\mathfrak{m}$ に属するため、$\mathcal{U}$ は有限集合を要素として持たない。すなわち、$\mathcal{U}$ は非単項超フィルター(non-principal ultrafilter)である。超フィルターの性質から、次が成り立つ。
$$g \in \mathfrak{m} \iff Z(g) \in \mathcal{U}$$
$K$ は無限体であるから、相異なる元の可算列 $c_1, c_2, c_3, \dots \in K$ を選ぶことができる。また、$X$ は無限集合であるから、可算無限個の互いに素な非空部分集合の列 $X_1, X_2, X_3, \dots \subset X$ で、どの $X_n$ も超フィルター $\mathcal{U}$ に属さないようなものを構成できる(例えば、 $X$ を可算無限個に分割したとき、超フィルターの有限加法性により、高々1つの可算成分しか $\mathcal{U}$ に属し得ないため、残りの成分を選べばよい)。ここで、関数 $f \in A$ を次のように定義する。
$$f(x) = \begin{cases} c_n & (x \in X_n \text{ のとき}) \\ 0_K & (x \notin \bigcup_{n=1}^\infty X_n \text{ のとき}) \end{cases}$$
いま、ある定数 $c \in K$ が存在して $[f] = [c]$、すなわち $f - f_c \in \mathfrak{m}$ であると仮定する。このとき、超フィルターの性質から $Z(f - f_c) \in \mathcal{U}$ でなければならない。
したがって、すべての $c \in K$ に対して $f - f_c \notin \mathfrak{m}$ であり、剰余体 $A/\mathfrak{m}$ において $[f]$ は $K$ のどの元の像とも一致しない。ゆえに、$A/\mathfrak{m}$ は $K$ を真に含む拡大体である。
具体例として $X = \mathbb{N}, K = \mathbb{R}$ とします。構成された関数 $f(n) = n$ を考えます。これは数列 $(1, 2, 3, 4, \dots)$ です。剰余体においてこの元 $[f]$ は、どんな定数 $c$ よりも「無限遠点で大きくなる」ため、どの実数とも一致しない無限大元となります。
逆に $g(n) = 1/n$ すなわち $(1, 1/2, 1/3, \dots)$ は、常に正でありながらどんな正の実数よりも「無限遠点で小さくなる」ため、無限小元となります。
このように、無限遠点での剰余体(超積)の中では関数の無限への発散や漸近といった挙動自体が「一つの数」として完結し、元の体に全く存在しなかった無数の新しい数(超実数)として組み込まれるのです。
さらに、この無限遠点での剰余体 $A/\mathfrak{m}$ は、モデル理論や非標準解析の分野における 超積(Ultrapower) $K^X/\mathcal{U}$ の代数的な構成そのものであり、以下の理由から $K$ に比して極めて巨大な体となる。
以上の論理的帰結により、 $K$ が無限体であるとき、無限遠点における剰余体 $A/\mathfrak{m}$ は、単に代数的な元を少数付け加えただけの拡大体ではなく、元の体 $K$ の濃度や構造を遥かに凌駕する「非常に大きな体」となる。
集合 $X$ の部分集合の族 $\mathcal{F} \subseteq \mathcal{P}(X)$ が $X$ 上のフィルター(filter)であるとは、以下の3つの条件を満たすことである。
フィルター $\mathcal{F}$ が包含関係に関して極大であるとき、すなわち $\mathcal{F}$ を真に含むフィルターが他に存在しないとき、$\mathcal{F}$ を超フィルター(ultrafilter)と呼ぶ。
超フィルターの最も重要な同値条件として、任意の $S \subseteq X$ について次が成立する:
$$S \in \mathcal{F} \quad \text{または} \quad X \setminus S \in \mathcal{F} \text{ のいずれか一方のみが成り立つ}$$
(7)の証明中で、極大イデアル $\mathfrak{m}$ に対して $\mathcal{U} = \{Z(g) \mid g \in \mathfrak{m}\}$ と定義した。$\mathcal{U}$ が超フィルターの条件を満たすことを確認する。
$\mathcal{U} = \{Z(h) \mid h \in \mathfrak{m}\}$ と定義されているため、$\implies$ の方向($g \in \mathfrak{m}$ ならば $Z(g) \in \mathcal{U}$)は定義そのものであり自明である。
逆方向 ($\impliedby$) を示す。$Z(g) \in \mathcal{U}$ と仮定する。定義より、ある $h \in \mathfrak{m}$ が存在して $Z(g) = Z(h)$ となる。ここで、関数 $k \in A$ を次のように定義する。
$$k(x) = \begin{cases} 0_K & (x \in Z(h)) \\ h(x)^{-1}g(x) & (x \notin Z(h)) \end{cases}$$
任意の $x \in X$ について $g(x) = h(x)k(x)$ が成り立つことを確認する。
$x \in Z(h)$ のとき:$h(x) = 0_K$ であり、$Z(h) = Z(g)$ より $g(x) = 0_K$ なので $g(x) = 0_K \cdot 0_K$ となり成立。
$x \notin Z(h)$ のとき:$h(x) \neq 0_K$ なので、$h(x) \cdot (h(x)^{-1}g(x)) = g(x)$ となり成立。
したがって環 $A$ における等式 $g = hk$ が得られる。$h \in \mathfrak{m}$ であり $\mathfrak{m}$ はイデアルであるから、その倍元である $g$ も $\mathfrak{m}$ に属する。ゆえに $g \in \mathfrak{m}$ が示された。
$\mathfrak{m}$ はイデアル $J$ を含む($J \subset \mathfrak{m}$)。$J$ はサポート(非零点)が有限な関数の全体である。
任意の有限集合 $F \subset X$ を取る。特性関数の余関数、すなわち $F$ 上で $0$ となり、$X \setminus F$ 上で $1$ となる関数を $e_F \in A$ とする。
関数 $1_A - e_F$ は $F$ 上で $1$、$X \setminus F$ 上で $0$ となる。このサポートは $F$ であり有限集合なので、$1_A - e_F \in J \subset \mathfrak{m}$ である。
もし $F \in \mathcal{U}$ であると仮定すると、定義より $e_F \in \mathfrak{m}$ となる。すると $\mathfrak{m}$ は $e_F$ と $1_A - e_F$ の両方を含むことになり、その和である $(1_A - e_F) + e_F = 1_A \in \mathfrak{m}$ となってしまう。これは $\mathfrak{m}$ が真のイデアルであることに矛盾する。したがって、任意の有限集合 $F$ は $\mathcal{U}$ に属さない。このような有限集合を含まない超フィルターを非単項超フィルター(non-principal ultrafilter / free ultrafilter)と呼ぶ。
互いに素な可算無限個の集合 $X_1, X_2, \dots$ があるとき、これらが高々1つしか $\mathcal{U}$ に属さない理由は、フィルターの定義「$A, B \in \mathcal{U} \implies A \cap B \in \mathcal{U}$」による。
仮に異なる2つの集合 $X_i, X_j$ ($i \neq j$) が共に $\mathcal{U}$ に属するとすると、$X_i \cap X_j = \varnothing$ であるから $\varnothing \in \mathcal{U}$ となってしまい、フィルターの定義の第一条件に矛盾する。したがって、互いに素な集合族から超フィルターに属するものは高々1つしか存在し得ない。